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京都府・法雲寺「35年ぶりの里帰り!檀家さんの想いが実った十一面観音菩薩の巻」

昨年(2015年)の6月14日 京都新聞に、35年ぶりに京田辺市の法雲寺に府指定の十一面観音菩薩像が戻られたとの記事が掲載されました。
Twitterでこの情報を知った僕は、是非とも拝観したいと同年の秋に、京田辺市の教育委員会へ拝観の連絡を入れお姿を拝むご縁を頂いてきました。



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十一面観音像はもともと、この地の白山神社境内の 法雲寺に安置されていましたが、明治時代の神仏分離令による廃仏毀釈を逃れる為に近くの西念寺に移されました。
その後 法雲寺は廃寺、その西念寺も無住の寺となり、仏像は村の檀家さんが共同で管理してきたそうです。
しかし、本堂老朽化が進み保存維持が難しくなってきた為、昭和55年(1980年)、京都国立博物館に修復や調査のため預けられました。


守り続けた観音様がこの地を離れて15年(1995年)、歴史ある観音様をこの地に戻そうと決意するも本堂の老朽化が著しく、安置するには不安があったそうです。
そこで檀家さんたちは本堂建て替えの積立を始めます。
15年。
15年にも及ぶ積立です。
本堂を建て替えるための積立は15年にも及び、2013年 ようやく本堂建て替えに着手します。
建て替え着手より1年、2014年に本堂が完成。
これに合わせて寺号も西念寺から法雲寺に戻し、2015年6月7日、同地を離れた十一面観音像が35年ぶりに戻られました。


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15年に及ぶ積立で建て替えられた本堂

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新たな本堂へ運び込まれる十一面観音像 京都新聞より


6月14日の開眼法要には約40人が集まり、戻られた観音様に熱心に手を合わせ、 『やっとこの日を迎えることができ、感慨無量です。心新たにみなさんの気持ちが一緒になればと思う』と喜びを語ったそうです。

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開眼法要の様子 京都新聞より


もう涙がでそうでしょ?
お像を守り続けていくという事がどれだけ困難で地域全体の協力が必要か、この法雲寺 十一面観音像のお話を知るだけでも分かると思います。
地域の仏像を巡っていると、似たような話を聞く機会は非常に多い。
高齢化社会や地域の過疎化、それによって今後の管理の行き詰まり。
仏像が好きで、ただ巡っているだけの僕は何か考えなければいけない。
力になれることを見つけたいと思います。


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戻られた観音像



これでもかという晴天に恵まれた中 お参りさせていただいた十一面観音菩薩立像は、やはり、非常に穏やかで優しく、慈愛に満ちているように見えました。
愛が詰まった観音様を、その愛を詰め込んできた檀家さんとともに拝める幸せは極まるものがありました。


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本堂


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十一面観音菩薩立像 府指定文化財 寄木造り 像高178cm 平安時代後期


スラリと柔らかく立つ観音さま。
正面より眺めると右へと傾いているのが分かります。
この様に傾斜した造形は霊木より彫り出されたとされる事が多いですが、この方もそうであるのかもしれませんね。
平安時代後期の特徴をよく表した穏やかでゆったりと優しさをみせる十一面観音像の腰つきは、緩やかにカーブを描き魅惑的な造形をしています。
右足を踏み出すことで生まれた体重移動の流れが腰に表されていて柔らか。



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伏した目の優しがあふれた尊容


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重力が、腰の左へ、右の膝へ、左足へとゆるいS字を描く


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ヒザ下辺りでひるがえす衣の造形のお洒落感


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踏み出す右足は檀家さんの想いを伝える前進の一歩



府指定 平安時代後期 十一面観音像。
文化財指定といった格付けを超えた想いや魅力、守り繋ごうと生きた檀家さんの信仰と愛着の観音さまに是非ともお会いして頂きたいと思います。






日向山 法雲寺(ほううんじ)
京都府京田辺市宮津白山5
TEL : 和束 毘沙門寺 0774-78-3266
宗派 : 真言宗
拝観 : 要予約
拝観料 : 志納
駐車場 : 有り






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大阪府・法泉寺「微笑みの聖観音菩薩立像の巻」

仏像好きの間では現在 東京国立博物館で催されている「ほほえみの御仏-二つの半跏思惟像」が話題を呼んでいます。
日本と韓国のアルカイックスマイルを浮かべた非常に優しく美しい2体の国宝 思惟像が向かい合って展示されているそうです。
ぐるりと360°横や背中までそのお姿を拝むことが出来るそうで、その場を離れられなくなりそうですね。
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先の記事(大林寺)と同日に巡った大阪府羽曳野市の法泉寺にも、優しい微笑みを浮かべた観音様がいらっしゃいます。
今回は法泉寺ご本尊、府指定文化財 聖観音菩薩立像をご紹介したいと思います。



国宝の弥勒菩薩繁華思惟像で有名な野中寺から南へ、31号線「野中寺」の信号を南へ直進すると左手に現れてくるのが黄檗宗 法泉寺です。
もともとは野中寺の別院としてあった宝泉寺が宝暦(ほうれき)年間(1751~1764) に独立して真言宗から黄檗宗へと改宗し、寺院名も法泉寺に改名されたそうです。
そしてこの時に野中寺 観音堂に安置されていた聖観音菩薩立像が法泉寺に移されご本尊となります。
事前に拝観のお願いをしておくと本堂へ上げて頂き、間近からそのお姿を拝す事が出来ます。



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黄檗宗らしい山門

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境内

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内陣



ご本尊の聖観音菩薩立像は本堂の中央に安置され、堂内は非常に明るく、間近まで寄ることが許されますので細部までじっくりとお姿を拝ませて頂けます。
腰を左に緩くひねり、柔らかく立つお姿は非常に美しいです。
スラリと伸びる長い右腕、ポッコリとでたお腹、重心は左にかけ右足を少し屈して動きを出しています。
足元には翻波式衣紋が刻まれますが、太く深くではなく、穏やかに刻まれていきます。
四角い顔に短い首、肩も張って男性的に見えますが、柔らかなスタイルや丸みが中性的にも見せてくれます。
素晴らしい観音菩薩様ですね。



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聖観音菩薩立像 府指定文化財 一木造り 像高約150cm 平安時代初期

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十一面観音像 尊容

正面より拝むと静かに目を閉じ穏やかな表情をされていますが、下方より仰ぎ見ると口角を上げ微笑まれているのがよく分かります。
このお顔を見た瞬間ため息が漏れ体の力が抜けていくのを感じました。
心がスッキリするような、いろんなストレスや疲れがフッと消えて楽になるような感覚です。
非常に美しいほほえみを浮かべたお顔をされています。


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見上げるように拝むと微笑まれているのがよくわかる


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ポッコリとでた腹部


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足元の翻波式衣紋


ご本尊から向かって左手には江戸時代作の3mの像高を誇る弁財天像が。
重量は300kgにも達するという強烈なお方。
非常に弁財天信仰が厚く、亀池弁財天と呼ばれ信仰を集めているそうです。


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像高3m重量300kgを超える弁天像






法泉寺(ほうせんじ)
大阪府羽曳野市野々上3-4-32
TEL : 072-955-9548
宗派 : 黄檗宗
御本尊 : 聖観音菩薩
拝観 : 要予約
拝観料 : 志納
駐車場 : 有り



参考にさせていただきました
羽曳野市ウェブサイト








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大阪府・大林寺「静かに立つ平安古仏 大林寺の十一面観音像の巻」

2015年、2月に訪れた大阪府松原市の大林寺。
こちらで松原市の文化財に指定され、河内西国巡礼第五番の札所本尊となっている平安時代後期 十一面観音菩薩立像を拝観してまいりました。


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大林寺 山門

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大林寺 縁起


もとは堺市美原区の大饗(おおわい)に所在した大林寺ですが、明治初頭に廃寺。
現在地となる松原市北新町には念仏寺がありましたが、こちらも廃寺となっていました。
檀家さんの要望により明治11年、大林寺をこの地に移したそうです。
そしてこの時、同じく廃寺となっていた近隣の永興寺(布忍寺)から移され今現在も守り伝えられているのが今回拝観させて頂いた十一面観音菩薩立像です。


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平成12年(2000年)に建て直された本堂


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本堂内陣



平成12年(2000年)に建て直された本堂には江戸時代後期の作となるご本尊 阿弥陀如来三尊像、向かって右手に江戸時代中期作の不動明王坐像、 そして向かって左に市指定文化財の平安時代後期作 十一面観音菩薩立像がお厨子に安置されており、外陣より拝観させて頂きます。


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十一面観音菩薩立像 市指定文化財 ヒノキ材 一木造り 像高171.5cm 平安時代後期


スラリと美しい姿勢、やや右足を前に踏み出す形ではありますが直立といえる静かなたたずまいです。
足元には渦紋があったり翻波式衣紋がうっすらと見え平安初期の特徴が見えたりしますが、全体的に衣紋の彫りは浅く抑揚が抑えられ平安中後期の像容。
おそらく両の腕や両足先は後補であると思われ、虫食いの状態も目立つことから市指定止まりなのかもしれませんが、非常に美しく優しさを感じさせて下さる観音様でした。



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全体的に虫食いの跡が目立つが凛とした静かなお顔立ち


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股の間には渦紋、足元には翻波式衣紋が見て取れる



ご本尊は安阿弥様の阿弥陀如来立像で江戸時代後期。
内陣へは踏み入ることが出来ませんのでやや遠目からの拝観の為、脇侍は見づらく江戸時代の仏像がいらっしゃるなぁという感想。
右手には江戸時代中期の不動明王坐像がいらっしゃいますが、非常にアニメチックでユーモラスなお顔をされています。
くりくりの眼に強く噛み締める口元がなんとも可愛らしく、幼さの残るようなお不動様にも注目したいです。


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三尊ともに前傾の姿勢を取られている

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デフォルメちっくなお顔をされたお不動さん



大阪を巡るなら是非ともオススメしたい十一面観音菩薩像。
美しく優美な観音さまを堪能してください。




布忍山 大林寺(だいりんじ) 
大阪府松原市北新町1-10-5
TEL : 0723-31-0718
宗派 : 融通念佛宗
御本尊 : 阿弥陀如来
札所本尊 : 十一面観音菩薩
拝観 : 要予約
拝観料 : 志納
駐車場 : 無し






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迦楼馬-カルマ-奈良県南部を巡るの巻

お久しぶりでございます「ひたすら仏像拝観」中の人、迦楼馬-カルマ-でございます。
突然の久しぶりの更新失礼致します。

先週の休日に久しぶりに母を連れての佛旅、奈良県南部の仏像を巡ってまいりました。
母を連れての佛旅は久しぶりで、巡った仏像は4ヶ寺と少ないけれど非常に充実した一日になりました。


早朝に実家を出発した我々親子は、朝一で野迫川村役場を訪れ文化財課の方に同行して頂き、9時からの拝観をお願いしていた清久寺へと向かいます。
清久寺とはいえ、現在は無住で村の集会所的な趣きの建物に安置されています。
ここにお祀りされているのが村指定文化財 阿弥陀如来坐像。
平安後期の阿弥陀像で、金箔の剥落が痛々しくも見える像容ですが、優しく柔らかに流れる衣紋や穏やかな体躯は定朝様を表しており良い阿弥陀様でした。
脇にいらっしゃる毘沙門天像は非常に素晴らしく、文化財的には無指定ながら非常に目を奪う像。
お目当てだった仏像以外のところで素敵な方に出会うと俄然テンションが上がります。



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次も同じく野迫川村の指定文化財 平安時代の地蔵菩薩坐像と、県指定文化財 鎌倉時代の釈迦如来坐像を、役場の方に同行して頂き拝観してまいりました。
10時の予定でしたが、9時40分頃に到着。
区長さんは既にいらしており、予定よりも早い時間でしたが拝観させていただけました。
地蔵菩薩坐像、釈迦如来坐像ともに衣紋の流れが非常に美しく力強い。
男性的な釈迦如来坐像と、男性的だなと思いながらもどこか妖しく女性的にも見えてくる地蔵菩薩坐像。


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野迫川村を後にし、グッっと移動して吉野郡上川村へ。
お参りさせて頂いたのは徳蔵寺。
本堂に室町時代、宿院仏師 源三郎作の阿弥陀如来坐像と釈迦堂に平安期の釈迦如来坐像がいらっしゃいます。
宿院仏師の阿弥陀如来坐像は本道須弥壇上、ガラス&編み越しの為、かなり見づらく尊容はハッキリとは確認出来ませんでした。
釈迦如来坐像は収蔵庫内(ガラス越し)で拝観させて頂けるのでよく見ることが出来ました。
量感たっぷりの頬に厚い唇の、お顔立ちに特徴が見えるお像で素晴らしかったですね。


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次に向かったのは福源寺。
国の重要文化財に指定された薬師如来坐像をはじめ、村指定文化財6体を有する寺院。
ご住職がノリノリで諸仏の紹介をして下さり非常に楽しい時間を過ごしました。
薬師如来らしく目の大きな方で、衣紋は薄彫りで優しさを感じさせて下さるお薬師さん。
脇侍の天部像は動きは硬いながら力強く凄く好みな天部像でした。


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本堂内には多数の仏像が安置され、村指定の十一面観音菩薩坐像、脇侍天部像をはじめ、無指定ながらも素晴らしい仏像郡がいらっしゃいました。
非常に見応えのあるお寺で大満足でこの日を締めくくるのでした。奈良県南部、恐るべし(ΦωΦ)


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プロフィール

迦楼馬-カルマ-

Author:迦楼馬-カルマ-
仏像の美しさに感動して以来、ひたすらに仏像拝観に明け暮れる四十路街道を走る男の拝観日記。
仏像拝観歴は非常に浅いので間違いも多々あり!日々精進でございます。
僕自身が見て感じた仏像観を記していますので美術史的、仏教学的に誤っていることが多々あると思ので、その時はご教授ください。



訪れた寺社の全てを記事にするととても追いつかないので佛旅速報でまかない本編記事はピックアップという形になっていきます。

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