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静岡県・かんなみ仏の里美術館「かんなみの地で守り継がれてきた仏像群の巻き」

6月29日。
前日の茨城秘仏ツアーの興奮冷めないままに帰路へと着きつつ仏像拝観。
訪れたのは静岡県函南町にある「かんなみ仏の里美術館」。


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函南町桑原区には平安時代となる薬師如来坐像や鎌倉時代 阿弥陀三尊像など二十四体もの仏像群が村人たちの手により守り継がれています。
平成20年に桑原区から函南町へと寄託され、貴重な文化財を後世へと残すため、より多くの方が観照出来る施設をと美術館の設立へと動き、2012年4月に「かんなみ仏の里美術館」がオープンしました。


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美術館的というよりもどこかお堂の様な綺麗な建物。
開館時間と同時に到着しすぐさま館内へ。
黒を基調とした落ち着いた展示室は非常に美しくて仏像の魅力が溢れていました。
館内を独り占めしてゆっくりと守り継がれてきた仏像群を堪能。


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公式HPより


平安時代作となる薬師如来坐像はたっぷりな量感を持った素晴らしい方。
丸々とした頬に胸や腹回りの厚さ、厳しめな表情は平安初期からの造形を感じさせるものの、衣文表現は平安後期に向かっていくような浅く整然と彫りこまれていました。
地方で出会うこの量感持った薬師如来はたまらないものがありました。


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榧(カヤ)材の一木割剥ぎ造り 像高110cm 彫眼 県指定文化財



重要文化財に指定された阿弥陀三尊像は鎌倉時代慶派仏師である実慶の作と判明しており、目力が強く引き締めた口元と若々しく溌剌とした造形。
体躯も引き締まり平安薬師と比べると段違いのスタイリッシュさ。
衣文表現も薬師如来と比べると流麗で洗練された感じ。
脇の日光月光も同様ですが、腹回りのたっぷりとした肉感が色っぽく艶やかな魅力を感じさせてくれます。
力強くもあり色気もあると、さすがだなぁと見惚れてしまいました。



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中尊 阿弥陀如来坐像 檜(ヒノキ)材の一木割剥ぎ造り 像高 89.1cm 重要文化財
左脇侍 勢至菩薩立像 檜(ヒノキ)材の一木割剥ぎ造り 像高106.1cm 重要文化財
右脇侍 観音菩薩立像 檜(ヒノキ)材の一木割剥ぎ造り 像高107.2cm 重要文化財




十二神将像も素晴らしい。
像高1mほどの立派な十二神将が12体。
平安時代の3体をはじめ、失われた像をそれぞれの時代で補われ現在12体を揃って残しています。
オフィシャルHPにてそれぞれの像様が見られますが(十二神将像)、写真から受ける印象と造像年代は少し違います。
おそらく、室町や江戸での補作が行われた際に補修も施され厚い色彩などがされたのではないかと思います。
造形美には差があるように見え、魅力的な像から簡易的だなと感じる像もあります。
しかし、実際に美術館で見る像容は黒を基調にされた空間と照明の質感とでどの像も非常に美しく、造形的にも統一感があるように見えました。
間違いなく写真よりも素晴らしい十二神将がいらっしゃいます。
とは言えやはり最も素晴らしいなと感じる像もあり、鎌倉時代の招杜羅立像が素晴らしかったかな。
顔の造形が素晴らしく前面に圧する迫力は他よりも抜きん出ていたと思います。




他にも平安後期の地蔵菩薩立像、毘沙門天像、聖観音菩薩立像なども。
聖観音菩薩立像はめちゃくちゃ好みの像で平安後期の特徴がよく出た像でした。
しかしここでは毘沙門天像を紹介したい。
動きは固く、力強さに欠けるかなぁとも感じたのですが、それを忘れさせてしまう甲冑や衣の表現が素晴らしく、平安後期から鎌倉期へと移り変わるくらいの彫り込まれた造形美が見えてきます。
甲冑は細かな表現もしっかりと表現され重厚さや気高さがあふれているようでした。
そして袖周りの美しく波打つ表現にため息。
ライティングの妙で美しい陰影があふれより一層に美しさを感じることが出来ました。


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毘沙門天立像 檜(ヒノキ)材の一木割剥ぎ造り 像高101.5cm 県指定文化財



かんなみ仏の里美術館の裏手の高台の方には、これらの像が元々安置されていた薬師堂が今も変わらず建っています。
お堂内に安置されていた時にも訪れることが出来ていたらなぁと思いますが、こればかりは仕方がありません。
しかし、その当時の空気だけでもとお堂を訪れてきました。
中には何もなく当時を偲ぶように安置されていた仏像の写真が立てかけられています。
堂内に優しく流れる音色は奥様が弾かれるオルガンの音。
噂に聞いていたオルガンを今も弾かれているようで、その音色を聞きながらこの堂内に仏像群が安置されていた風景を想像しながらゆったりとした時間を過ごしてきました。
予定していた時間を大幅に超えてしまっていたけど離れがたい魅力に囚われその場を後にすることが出来ませんでした。


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薬師堂の裏手の方には西国三十三観音霊場があり、自然の中に石仏群がひっそりと苔むしながらたたずんでいます。
山の空気を胸一杯に吸いながら巡りました。


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※仏像写真は美術館配布のペーパー及び公式HPより転載

かんなみ仏の里美術館
HP : http://www.kannami-museum.jp/
静岡県田方郡函南町桑原89-1
TEL : 055-948-9330
定休日 : 火曜日、12月29日~1月3日
駐車場 : 有り










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宮城県・仙台市博物館「奈良・国宝 室生寺の仏たち」

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仙台市博物館「奈良・国宝 室生寺の仏たち」。
7月4日より始まったこの室生寺展は”東日本大震災復興祈念特別展”と銘打たれた、室生寺の復興への心が詰まった特別展となっております。

室生寺は1998年に台風により杉の大木が倒れかかり、五重塔が大きな被害を受けます。
しかし、全国からの篤い支援によりわずか2年で復元され元の姿を取り戻しました。
自然災害により大きなダメージを受けても人々の温かい支援があれば、やがては必ず立ち直ることが出来る。
そのことを身を持って体験された室生寺からの東北への恩返し、復興支援がこの室生寺展です。
今回の特別展への出展により、室生寺金堂はご本尊の薬師如来立像を残しその全てが堂外へと出ました。(客仏除く)
また、金堂十一面観音菩薩立像と双璧をなす室生寺の代名詞仏 弥勒堂の釈迦如来坐像も出展されます。
現在の室生寺は”もぬけの殻”とまで表現する記事も目にするほどの状態にしてまでも、この特別展、東北復興への支援を決めた室生寺の心が詰まっています。
まさに”室生寺が東北に来た”と言うしかないほどの特別展です。

展示内容は入った途端にいきなり現れる釈迦如来坐像。
ガラス越しではありますが間近から平安初期彫刻の到達点ともいわれる像を見ることが出来ます。
鋭く彫りこまれ陰影が鮮やかに浮かび上がる翻派式衣文の美しさは圧倒的で、隙間ないほどに波打ちます。
通常堂内安置の際には正面よりしか拝することが出来ないこの像を真後ろは見れないにしても、後方より見ることが出来ます。
左斜め後ろより見る像の美しさは素晴らしく、肩より流れ落ちる衣の表現は圧倒的で、何よりも尊顔が美しい。
切れ長の目に通った鼻筋、キリッと結んだ口元はまさに土門拳が評した、”日本一の美男子”に相応しいお顔でした。

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第4室には立体曼荼羅の如く室生寺金堂の諸仏が一堂に展示されています。
十二神将像、十一面観音菩薩立像は360°拝観。
しかも十二神将像は奈良国立博物館に寄託された2体をも加えた12体全てが揃います。
その他、薬師如来立像、地蔵尾菩薩立像、文殊菩薩立像も真後ろには立てないまでも後姿もしっかりと拝むことが出来る配置。
金堂内では見ることが出来ない後姿や足元の衣表現がかぶりつくように見ることが出来ます。
手の届く位置に躍動感にあふれ、ありとあらゆる表情を見せる十二神将像が立ち並ぶのです。

お像が浮かび上がるように計算されたライティングがその尊容をより美しく、よりユーモラスに、よりエキサイティングに見せてくれます。
ライティングにより十二神将の躍動感あるポーズがさらに躍動感を増し、表情に生命力を与えます。
十一面観音のふくよかな頬のふくらみがより一層と優しさを含んだように量感を持ちます。
後ろへ回り見上げればそこには愛らしい暴悪大笑面が。
おおよそ堂内では見ることが叶わないお姿があちこちにといらっしゃいます。

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十二神将の各所に残る彩色を見止め、柔らかく美しく躍動するユーモアさえ感じるポージングを360°で見て回る。
勇猛であり、ニヒルであり、キュートであり、聡明であり、果敢である、あらゆる表情を見て回ることが出来る、生命力あふれた12体の神将像から生きる力と未来を感じ取れる気がしました。

金堂では見れない菩薩像、如来像の深く刻まれた足元の衣紋表現を確認して回る。
その量感ある肉付きを横から後ろから見て回る。
そして深く半眼に伏した慈悲深き瞳にこれ以上ないくらいの優しさを感じました。

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どの展示室を見てもとにかく凄い。多くの人に訪れてもらいたい。
そこには無意識のうちに手を合わせてしまう慈悲深い仏たちと、生き生きとした生命力の躍動を奮い立たせてくれる諸仏が所狭しと並んで知る。




仙台市博物館
東日本大震災復興祈念特別展「奈良・国宝 室生寺の仏たち」
会期 : 7月4日~8月24日
開館時間 : 午前9時~午後4時45分
休館日 : 月曜日
一般1400円
大学・高校生1100円
小・中学生700円










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大阪府・堺市博物館「法道寺の至宝展の巻き」

常光寺から車で30分ほど、次に訪れたのは堺市博物館。
こちらでは堺市南東部・上神谷地区にある法道寺の寺宝を一堂に会した「法道寺の至宝展」が催されていました。
寺宝の一つである重要文化財・十六羅漢像十六幅が、国・府・市の補助金を得て六年の歳月をかけて修復された、その完成記念として催されたものです。
過去にも法道寺の寺宝については堺市博物館にて特別展が催されてきたそうですが、今回の特別展示はその集大成となるような、法道寺の寺宝のほぼ全容を紹介する内容となっています。

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まず展示場へ入って飛び込んでくるのは寺名にもなっている法道仙人奇像。
見た瞬間には役行者像かと思いましたが、役行者像が錫杖を持っていることが多いのに対し、法道仙人は鉄の宝鉢を持たれています。
そのことから空鉢(くはつ)、空鉢仙人(からはちせんにん)とも呼ばれています。
元はインド出身の僧で、推古天皇の時代、6~7世紀に日本へと渡ってきたとされます。
播磨国、現在の兵庫県の産学一体に開山、開基として名を残しますが、本当の事跡や没年、墓所などすべて不明で、伝わっているのはその名前と仙術にまつわる伝説ばかり。
実在したのか?とも疑問視されることもあるそうですが、日本に渡るときに共に渡ったされる牛頭天王は姫路市にある広峰神社に祀られ、その後現在は八坂神社中の座に祭られたとされていることから、播磨国が法道仙人と関わりが深い事は間違いないそうで。
寺院のみならず、この地にある不思議な自然物なども法道仙人と結び付けて伝えられていることは、この地に確かな法道信仰があったことを示します。

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その後続々と続く仏像の展示。
法道寺は金堂須弥壇に本尊として薬師如来が3体祀られているそうですが、その3体ともがお出ましになっていました。
まずは中尊として祀られている薬師如来坐像で、顔、胸、そして施無畏印の右手に後補の金箔が見える方。
堂内では脇侍に日光月光菩薩を従えているそうです。
肩幅が広く穏やかな体躯で薄く綺麗に規則的に流れる衣文線は平安後期の特徴を見せてくれます。
上に組んだ左足のかかとを衣に包む衣の表現が優しくて綺麗です。
ヒノキ材の一木割矧ぎ造りで彫眼、像高は62cm。
3体の中で最も衣文線の美しい薬師如来でした。

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並んで堂内では須弥壇向かって右に安置される薬師如来坐像。
薄目で見据える力強い不思議な目をされた薬師如来。
中尊よりは小さな体躯で、どことなくバランスに欠ける印象。
衣文線はやや硬く地方佛的な印象も。
頭部は寄木造りで体幹部は一木造りであることから、元々は別の像が組み合わさったのではないかとの事。
像高は59.2cm。

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須弥壇向かって左に安置されているという薬師如来坐像はもっとも端正な顔立ちで、
定朝様を感じさせる薬師如来でした。
体躯の肉付きも良く、衣文線も柔らかで磨滅が見られ薄れているものの、
体の肉付きが見て取れる柔らかさでした。
ヒノキ材の一木割剥ぎ造り、像高51cm。

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展示室中央に展示された胎蔵界大日如来像は非常に地方的で丸々とした顔に大きな団子鼻。
強く結んだ口元なども、その表情を特異なものにしているように感じました。
ある時期に大きな改変が加えられたのであろうとの事で当時の尊名は不明。
宝冠阿弥陀との考えもあるそうですが、阿弥陀如来であれば印相は指を結んだ阿弥陀定印となるはず。
しかし、大日如来ならば衲衣ではなく、条帛と裳を着す。
いろいろな考察があった上で、今回の展示では法界定印の印相から胎蔵界の大日如来として展示されたそうです。
非常に面白いと感じる造形の考察で、言われなければ僕なんかは気づかずに胎蔵界大日如来かぁ珍しいなぁとそれだけで、大日如来としての衣の表現にまで考えは及ばなかったでしょう。

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そして恐らくこの大日如来と並んでいたか。。。近辺に展示されていた阿弥陀如来立像(展示順の記憶が曖昧になってる(笑)
両手両足の先を除き、両袖から垂下する薄い衣までを一材から彫りだす一木造りで、目は彫眼、肉身部には白土地が残る。
また、台座や舟形光背まで当初の物であるとの事で、二重円光の周縁部に施された蓮華唐草の透かし彫りや衣の袖口などからも、薄彫りの技術に長けた仏師の作であると考えられています。
衣の造形は非常に薄くて磨滅も進み木目が浮き出ていますが、全体的に大らかなゆったり優しい印象を受ける阿弥陀様ですね。
朽ちた感がありますが、一木より彫りだされ光背も現存する姿に、大きな信仰の力、信仰の厚さを感じてグっときます。

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そして一列に整然と陳列された十二神将像。
鎌倉時代の作と考えられ、一木割剥ぎ造りの玉眼嵌め込み、像高は70cm前後。
胴長でぎこちない動作も目立ちますが個人的には子神、寅神、午神、酉神の造形が躍動感に富み、顔の筋肉の表現や表情、衣の捻じれ波の表現が素晴らしく感じました。
十二体全てが揃って展示されているのも爽快で見応えあります。
慶派の造像と考えられている優れた十二神将が一列に並んで踊るさまはカッコ良くてうんうんうんと何度も頷いてしまう満足感。

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展示された仏像の中で最も洗練されていたのが現在、食堂に安置されているという平安後期の阿弥陀如来坐像。
ヒノキ材の一木割剥ぎ造りで、彫眼。
堂々とした体躯に品のある非常に美しい定朝様を示す阿弥陀様です。
特徴的なのは八角形裳懸坐に坐し、八方に裳を垂らします。
同様の例は滋賀県・金胎寺像や京都・三千院像など数例が知られるのみで、非常に洗練された像であることから当時でも一線で活躍した仏師の作であろうと考えられています。
本当に美しくて瞑想的で品のある阿弥陀如来坐像です。

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ざっと仏像を追いかけていきましたが、訪れる前の期待をはるかに超える内容で驚きました。
ご本尊の三薬師が全てお出ましになり、十二神将も勢揃い、また多宝塔や食堂などからも尊像がお出ましになるなど、過去の法道寺展の集大成と謳うに相応しい大満足の内容でした。
危うく見逃すところでしたが、訪れることが出来て良かった。


※仏像写真は全て図録より




堺市博物館
大阪府堺市堺区百舌鳥夕雲町2丁 大仙公園内
駐車場 : 大仙公園仁徳御陵駐車場(有料)








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京都府・京都国立博物館「南山城の古寺巡礼展の巻き」

5月1日前期展。
5月28日後期展。
京都国立博物館で催されている「南山城の古寺巡礼」展に上記日程で2度訪れてきました。
非常に充実した内容で、この南山城という地域に残された仏教美術の質の高さや重要性が如何なく示された素晴らしい展覧会です。
南山城の寺院に関しては過去に数度訪れており、ほとんどの仏像は1度ないし2度拝観している方々ですがまた別の魅力を感じさせて頂きました。

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今回スポットがあてられた南山城という地域は、京都府の南部に当たり、京田辺、木津、加茂町など木津川流域一帯を指す呼称で、文化的には京都でありながら隣接する奈良の影響を色濃く受けた地域であり、当時の最新技術を持った渡来系の人々が多く住む地域でもありました。
その為、他の地方に先駆けて大規模な伽藍を有する寺院が多数築かれ、平安時代以降には山岳修行の地ともなり、奈良や京都の大寺の争いを逃れた高僧たちが庵を結んで隠棲する場所ともなります。
その結果、この地には多数の優れた仏教美術品が残される文化財史的にも非常に重要な地域となっています。

それらの文化財を一堂に会し、また3年に渡る文化財調査の成果発表の場として催された南山城展。
第1章「南山城の歴史と文化」から始まり、第2章からはそれぞれの地域、寺院に分類され あたかも南山城の寺院を順番に訪れていく感覚になります。
まさに南山城の古寺巡礼であり、交通の便的には訪れることがなかなか難しいとよく聞くこれら一体の寺院を巡礼する疑似体験をさせて下さいます。

当ブログ的にはやはり仏像に注目していくわけですが、大注目はやはり浄瑠璃寺と岩船寺の章で展示された秘仏 大日如来像と薬師如来坐像でしょう。
浄瑠璃寺 灌頂堂に安置される大日如来像は通常非公開で年に3日間のみの公開(1/8~1/10)。
その秘仏が全期間を通してお出ましとなりガラス越しとはいえ間近より拝すことが出来ます。
像容は一目して慶派仏と感じることができ、運慶作として名高い円成寺 大日如来像との共通点が多く、顔つきなど細部の特徴は運慶の父 康慶の作風とも共通すると指摘されている。
頬の張りや肘の張り等、穏やかで大人しい作風から、円成寺像などを手本として造像された鎌倉時代初期の慶派仏と考えられているようです。
確かに言われてみれば円成寺像と比べ勢いというか張りが抑えられた感はありますが、それでもなお凛々しく若々しさの伝わる素晴らしい像容です。
後補の泥地彩色が剥されたことにより、はっきりと現れたその尊容がこの像の魅力を伝えてくれます。

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同じく浄瑠璃寺 三重塔に安置されている薬師如来坐像は正月の三が日、毎月8日、お彼岸と年に限られた期間しか拝観することが出来ません。
また、拝観時期でも拝観距離が遠く像容ははきっりとは見えないとか。僕自身は現地ではまだお会いしたことがないので断言は出来ませんが。
その秘仏 薬師如来座像が後期展示内に(6/1まで)出展されています。
浄瑠璃寺はその寺名からも分かるように薬師如来の住む東方浄瑠璃世界に由来します。
本像が浄瑠璃寺の創建と深く関わっていることは間違いなく、当初の本尊であったとも考えられています。
非常に神秘的なお顔をされた薬師如来像で平安後期の作ではありますが力強く堂々とした男性的な像だと感じました。
胸板の感じなどは筋肉質な感じで、首周りから肩口に掛けても非常に逞しく感じます。
斜め前方より拝すとめちゃめちゃイケメンでグッとくる。
この1体が見たいが為に後期展を訪れたのですが間違いないです。
本当に素晴らしい薬師如来坐像です。

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書き出せばキリがなく終わらないので(笑)、この南山城展のメイン仏について。
南山城の2大巨頭、寿宝寺 千手観音菩薩立像と禅定寺 十一面観音菩薩立像。
共に南山城を代表する素晴らしい仏像で今回の展示でも中央の部屋で一際目立つ展示をされていました。

寿宝寺 千手観音像は昼と夜の顔を持つと言われる千手観音菩薩で、寿宝寺にて拝観すると収蔵庫の扉を開け閉めして下さり光りの当たり方を調整し昼夜の顔を見せて下さいます。
今回の展示では光が正面から当たることによって浮かび上がる厳しい昼のお顔と、上からの光により影をもたらす慈悲のお顔の中間的な斜め上からの照明で展示されていました。
どちらかといえば夜寄りの慈悲深いお顔が浮かび特に横から拝むお姿は陰影が見事で素晴らしかった。
暗く影を落とした瞳、鼻筋、唇のラインが本当に美しく感動します。
横からの拝観は寿宝寺では出来ない拝し方ですのでこの展覧会だからこそ実現した美しさでしょう。

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禅定寺 十一面観音菩薩立像 像高は286.3cm。
堂々たる大きさの十一面観音像で材質は主要部分をサクラ材で彫りだしヒノキ材を併用している。
この当時、通常であればヒノキのみで彫りだされることが一般的であったがサクラ材を利用していることからそれが神木であった等の特殊な事情が想定されるそうです。
足元に見せる翻派式の衣文や各所に見せる渦紋表現は素晴らしく、これだけの巨像でありながらも細部までが非常に美しいです。
なまめかしい腰つきから しなやかな指先まで巨像とは思えない繊細さがあふれています。

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他にも寿宝寺の155cmを超える降三世明王&金剛夜叉明王。
ダイナミックで荒々しく飛び出す双眸が圧倒的。
野性的で吼える声が聞こえてくるような迫力が迫ります。

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禅定寺 地蔵菩薩半跏像は美しい。
見事に流れ落ちる衣文に、左足をやや開き気味に垂下させるその姿は静かで尊い。
この方が荒ぶる降三世&金剛夜叉の両明王の向かいにいらっしゃるのが対比があって面白い。

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神童寺蔵の愛染明王、白不動明王、日光月光両菩薩像も素晴らしい。
この神童寺像は弓矢を天に向けて構えるお姿で、その造形から天弓愛染明王と呼ばれるお姿。
天弓愛染の造形は天台宗の円珍が日本へ請来したものと伝わりますが、その残存は真言宗寺院に残されているそうで、天台系から真言系へと広まった理由など謎が多い尊容だとのこと。

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白不動は非常に可愛らしいような一見すると童子像にも見えるような像で特徴は天台僧円珍が感得した金色不動との共通性が高いそうです。
その特徴は左より垂らす弁髪がない事や、上半身は裸身で条帛もまとわない。裳裾が大きくめくれ上がり膝を見せるなどなどなど。
寺伝でも波切不動と言われ、通常は空海が帰国の途上に船中で嵐にあった折に表れ救ったとされる不動ですが寺伝では空海ではなく円珍を救ったとなっているそうです。
天弓愛染と並び真言寺院の神童寺に伝わる不思議を感じます。

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前期展で造形をじっくりと楽しみ、後期展では購入した図録に目を通してから時代背景や考察を通して拝してきました。
当ブログでは仏像ばかりを取り上げていますが、仏像以外にも仏画や縁起書、仏具、出土品など見どころはそれぞれにあると思います。
会期は6/15まで。一度訪れた方も是非二度目を。まだ訪れていない方はお忘れなく!

今回の南山城の古寺巡礼展で、間違いなく南山城を巡ろうと心に決めた方は多数いらっしゃると思います。
もちろん僕も必ず再訪しようと心に決めました。
博物館で見るのとはまた違った魅力を見せてくれるでしょうし、本来あるべき場所にいらっしゃるお姿を拝してこその特別展だと思わされました。



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※仏像写真は全て図録および京都 南山城の仏たちより
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京都国立博物館
京都市東山区茶屋町527











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東京都・東京国立博物館「時を超える仏の救いの巻き」

東京国立博物館 法隆寺館。
圧巻でしたね。
度肝を抜かれたと本気で書きたい。
何この理想郷?!そんな思いが頭に浮かぶ。

展示室一面に広がる白鳳金銅仏群!
どれもが吸い込まれるような魅力にあふれた金銅仏です。
あっちもこっちもカワイイ。
幼児体型的な愛嬌のあるとんでもなく可愛らしく美しい仏像群が整然と並ぶその一室は圧巻でした。
限られた時間の中で全てをじっくりと見る事は出来ないので全体をぐるりと2度回って、この日 思わず立ち止まってしまった仏像をじっくりと見てきました。
また次訪れたときは別の仏像の前で止まるんだろうなぁ、その日その時の心のありようで惹かれるものが変わるのが仏像の不思議さ。

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一面に寄せる波のように広がる金銅仏。
水瓶を持ち静かに佇んでらっしゃる方や、施無畏与願印を結び慈悲深き佇まいの方。そして思惟手をそっと頬にあて瞑想されている方。
どれもが美しくて可愛らしくて油断すると涙が溢れそうになる素晴らしさ。
救ってくださる立場の観音様達なのに何故か抱きしめてあげたくなってしまう。
飛鳥の時代よりずっと救い続けてこられた観音様。
1500年の時を施無畏し、与願し、思惟し続けている。
この先もずっと変わらず救い続けて下さる観音様に言葉では言い表せない想いが溢れてしまいました。


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プロフィール

迦楼馬-カルマ-

Author:迦楼馬-カルマ-
仏像の美しさに感動して以来、ひたすらに仏像拝観に明け暮れる四十路街道を走る男の拝観日記。
仏像拝観歴は非常に浅いので間違いも多々あり!日々精進でございます。
僕自身が見て感じた仏像観を記していますので美術史的、仏教学的に誤っていることが多々あると思ので、その時はご教授ください。



訪れた寺社の全てを記事にするととても追いつかないので佛旅速報でまかない本編記事はピックアップという形になっていきます。

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